町内会があちこちに消火器を設置しているのを見かけますよね。
「火事が起きても大丈夫!」という安心感はありますが、実際のところ、火事の消火にはどれほど役立つのでしょうか?
消火器は「初期消火」だけ
消火器は、火が小さいうちに使うことが前提です。
- 煙が出始めた直後
- 炎が天井まで届く前
- 身長の高さまでの火
この段階であれば、消火器で火を消すことが可能です。
しかし、火が大きくなって黒煙が窓から出ているような状態では、消火器はほぼ無力です。
むしろ安全第一で避難するのが最優先になります。
町内会設置消火器の問題点
町内会が町に設置する消火器にはいくつかの問題点があります。
距離が遠い
「10軒に1本」程度の配置間隔だと、火元から消火器まで取りに行く間に火が広がることがあります。
火事発生→消火器を取りに行く→家に戻る→消火作業
この1~2分の間に火はどんどん大きくなり広がる可能性があります。
家の目の前に消火器があればすぐに取りに行けるかもしれませんが、距離が遠ければほぼ無意味となります。
費用と維持の負担
消火器には使用期限があるため、期限を迎えるたびに新しいものへと交換する必要があります。
- 家庭用消火器の多くは 10年で交換が必要
- 消火器の相場は3000円~5000円
- 5軒~10軒に1本設置する
これらを考えると、1年間あたりの費用を計算することができます。
たとえば400戸の町内会で10軒に1本設置すると40本必要で、1本4000円かかるとすると購入費用で160万円かかることになります。耐用年数が10年であれば、1年間の費用は16万円です。
このコストに見合う効果があるのかを真面目に考える必要があります。(地方自治体から補助金がおりる場合もありますが、そのお金はどこから集めたものでしょうか?)
「あるとなんとなく安心だから」そのような理由で、みんなから費用を徴収してよいのかは議論すべきです。
消火器は多くの自治体で処分不可となっています。専門業者に引き取ってもらう場合、消火器によっては廃棄処分費用が別途かかるものもあります。
水をかけるのと比較してどちらが早い?
火災が起きたとき、近所の消火器を取りに行く場合と自宅で水をかける場合の時間を比べてみます。
- 近所の消火器を取りに行く : 1~2分
- 手鍋で水を汲んでかける : 30秒~1分(水を入れる時間も含む)
水を入れる時間を含めたとしても、手鍋で水をかける方が早く消火作業に取りかかれます。火が燃え広がる前に早く対処することが大切なので、この1分の差は実際の火災では大きな違いになるかもしれません。
1分でも燃え広がりやすい素材
火元の近くにこれらのものがあると火があっという間に広がってしまうので注意が必要です。
- 布
- 紙
- 段ボール
- 木製の家具
- プラスチック製品
- アルコール
たとえば、ソファ・ふとん・ベッドなどの大きい布製品は、面積が広いのと中に空気を含んでいるのとで相まって、一度火が付くとまたたく間に火が広がってしまいます。同じようにカーテンも面積の大きな布製品で燃え広がりが早いです。
揚げ物の火災に消火器は効果的なのでは?
揚げ物で油が高温になり火が出た場合、水をかけると火が爆発的に広がる危険があります。そのため、油火災では消火器を使って鎮火することが効果的とされています。
消火器は、火元に粉をかぶせて酸素の供給を遮断することで火を消す仕組みです。高温の油でも有効に働きます。
しかし、近所まで消火器を取りに行く方法は問題があります。
- 発火(0分):油火災が発生
- 火が拡大(1分):火が大きくなり、黒煙や一酸化炭素が発生し始める
- 消火器を持って戻る(2分):火が燃え広がり煙が充満して、避難が難しい状況になる可能性が高い
- 消火開始:その後消火するには危険な状況で行わなければならず非常に難しい作業となる
- 消火が開始できず3分以上経過した場合 : 火が天井に達し初期消火が不可能になり家が全焼するリスクが極めて高くなる
そのため、初期消火を目指すなら、キッチンのすぐそばに消火器を置くことが重要です。
手元にあれば、発射準備も含めて30秒以内に消火に取り掛かることが可能です。
2分経過後の火の勢いが分かる動画
こちらの動画を見ていただくと、揚げ物の油の火が2分でどのくらいの大きさになるのかが一目で分かります。
コンロの火をとめれば自然に火は消える?
ここで気になるのは、もし油に火がついた直後に気づいて、すぐにコンロの火を止めたらどうなるのか、という点です。
「熱が収まれば自然に火も消えるのでは?」と思う人もいるかもしれませんね。
しかし実際には、いったん油に着火すると油そのものが燃料となり、火はどんどん勢いを増していきます。
そのまま放置すれば、火災に発展するリスクが急激に高まる危険な状態です。
つまり自然に火が弱まって消えることは決してありません。ここはしっかり覚えておきましょう。
町内会に消火器の設置義務はない
町内会に消火器を設置する義務は法律で定められていません。
消防法上、消火器の設置が義務付けられているのは、ホテル・学校・老人ホーム・飲食店・工場などの「一定規模以上の建物」や「事業所」に限られており、一般家庭や町内会の共用スペースは対象外です。
そのため、町内会の消火器は地域の自主的な判断によるもので、法的義務として設置されているわけではありません。
消火器を廃止する町内会もある
近年では、町内会に設置していた消火器を撤去するケースも見られます。
理由としては以下のような点があります。
- 消火器の管理や点検に手間や費用がかかる
- 設置数が少ないため効果が限定的
- 実際に使ったことが一度もない
- 自宅内に置いた方が初期消火に効果的
このように、形だけの消火器を維持するよりも、実際に意味のあることにお金を使うべきと考える町内会が増えています。
実際に消火器を廃止した町内会の例↓
まとめ
- 消火器は初期消火用、火が大きくなると無力
- 町内会設置の共同消火器は距離や配置の面で実効性が低い
- 各家庭に1本常備すれば初期消火に対応できるようになり被害を最小限にできる
町内会に設置されている消火器は「あると安心」という気持ちを与えてくれるかもしれません。
けれど、いざ火が出たときに本当に役立つのは、自宅の中にあってすぐに使える消火器です。
「なんとなく安心できる」
「防災に取り組んでいる感じがする」
──そんなイメージだけで満足してしまうのはもったいないと思います。
みんなから集めた大切なお金だからこそ、実際に役立つ使い道を考えていきたいですね。