電気自動車や風力発電、スマートフォンなど、現代社会を支える技術に欠かせないレアアース。
一方で「レアアースによる放射線・環境負荷が問題になっている」というニュースも見かけます。
この記事では、
- レアアース精錬と放射性物質の関係
- 地上と海底で採れるものの違い
- 放射線が広がる経路
- 長期的な健康への影響
- 放射線以外の環境負荷
などを、できるだけ分かりやすく整理して解説していきます。
レアアース自体は放射性物質ではない
まず前提として重要なのは、レアアース(希土類元素)そのものは放射性物質ではないという点です。ネオジム、ジスプロシウム、ランタンなど、工業的に利用されるレアアース元素はいずれも安定同位体で構成されており、放射線を出す性質は持っていません。
問題はレアアースが存在する“場所”と“取り出し方”にあります。
元の鉱石に放射性物質が含まれている
レアアースが問題視される理由は、トリウム(Th)やウラン(U)といった自然放射性元素がレアアースを含む鉱石の中に共存していることが多いためです。
そのため、仮にレアアース鉱石に放射性物質が含まれていなければ、放射線問題は生じません。
地表のレアアース鉱石に放射性物質が含まれる理由
レアアースは基本的に地表近くでも地下深くでも存在しますが、採掘費用や加工のしやすさの面から、地表近くの砂鉱や風化鉱床を中心に採掘する方法が一般的です。
こうした地表近くの鉱床には、自然由来の放射性物質も含まれます。
モナザイトなどの鉱物はトリウムを結晶内に取り込みやすく、長い時間をかけて岩石が風化すると、重くて壊れにくい鉱物だけが砂の中に残ります。一方、ウランは地下水に溶けて移動しますが、酸素が少ないなど沈殿しやすい条件の場所では固体として留まり、地表近くの鉱床に蓄積されることがあります。
そのため、地表近くで採掘されるレアアース鉱床は、トリウムやウランといった自然由来の放射性物質を一定量含む傾向があるのです。
海底のレアアースに放射性物質が少ない理由
海底で見つかるレアアースが注目される理由の一つに、トリウムとウランをほとんど含まないという特徴があります。
海底のレアアースは鉱物として存在しているのではなく、海水中に溶けていたレアアースが、鉄やマンガンの酸化物粒子に吸着して泥として堆積したものです。
この環境では、トリウムのように水に溶けにくい元素は海底の奥深くに残り、ウランは大量の海水によって分散して濃縮されにくくなります。そのため、海底表層で採掘されるレアアース泥は、放射性物質の含有量が低いのです。
精錬中の化学処理で放射性廃棄物が濃縮される
レアアース精錬では、硫酸や塩酸などの強酸を使って浸出処理や溶媒抽出が行われます。
この過程で、目的とするレアアース元素は分離・回収されますが、トリウムやウランは不要なものとして廃液や廃棄物として処理されます。
結果として、
- 放射性物質を含む廃液
- 放射能濃度が相対的に高くなった固体廃棄物
が発生します。
これらは「自然由来」ではあるものの、人為的に濃縮された放射性廃棄物であり、適切に管理しなければ環境汚染や被ばくリスクにつながります。
過去に問題となった事例の多くは、技術そのものよりも、廃棄物管理体制の未整備が原因でした。
放射性物質はどんな経路で広まる?
レアアースの採掘・精製・廃棄によって出た放射性物質は、様々な経路で広範囲に広がっていきます。
鉱物の粉塵
採掘・破砕によって粉々になった鉱石は、粉塵として空中に飛散して人間の呼吸器に入りやすくなります。
また、粉塵は採掘現場だけでなく風に乗って広い範囲に移動します。
遠くまで運ばれて、雨や雪などと一緒に地表に降りることで、 地表・植生・水域への沈着につながる可能性があります。
廃棄物から雨水で流出
放射性物質は水に付着したり溶けたりして移動します。
精錬後に残る廃液・廃棄物に残った高濃度の放射線物質が、雨水と接触して溶けて流れ出ることで各地の水域や土壌に広まっていきます。
食物を介した摂取
放射性物質は、食べ物や飲料水を通じて体内に取り込まれる可能性があります。
- 表面に付着した放射性物質が残る野菜や果物
- 汚染された水で育つ魚介類
これらを長期間かけて少量ずつ体内に取り込み蓄積すると、内部被ばくとして健康に影響が出ることがあります。
放射線は自然に消滅する?
レアアース採掘・精錬で出る放射性物質 (トリウムやウラン)はごくゆっくり減っていき消滅に向かいます。しかしその速度は極めて遅く、人間の時間感覚では「消滅しない」と考えるのが適切なレベルの長さです。
- トリウム-232・・・ 半減期 : 約140億年
- ウラン-238・・・ 半減期:約45億年
半減期とは、放射性物質の量が、時間の経過によって半分になるまでにかかる時間のことです。半減期は物質ごとに決まっていて、人為的に早めたり遅らせたりはできません。
原爆の後に住めるようになったのはなぜ?
原子力爆弾で放出される放射性物質の多くは、
- ヨウ素‑131(半減期 約8日)
- テルル‑132(半減期 約3日)
- バリウム‑140(半減期 約13日)
といった半減期が非常に短い核種です。
これらは爆発直後に強い放射線を出しますが、数週間〜数か月で急激に減少します。
「最初は極めて危険だが、時間が経つと急速に危険度が下がる」というのが特徴です。
そのため、時間の経過とともに居住可能な状態へと回復しました。
原発事故後は住めるようになるのか?
原子力発電所の事故の場合は、ケースバイケースです。
居住可能になるかどうかは、
- 放出された放射性核種の種類
- 量(総放出量)
- 環境中での拡散・沈着のされ方
- 除染・管理がどこまで可能か
によって大きく変わります。
たとえば、
- セシウム137(半減期 約30年)
- ストロンチウム90(半減期 約29年)
- プルトニウム239(約24,000年)
これらが含まれる場合は、長期的な制限が必要になる可能性があります。
トリウム・ウランで人が住めなくなる地域になるのか?
レアアースの採掘・精錬・廃棄物で出るトリウムとウランで「人が住めない地域」ができるレベルになるのかを見ていきます。
トリウム232・ウラン238自体の放射能は弱い
じつはトリウムとウランは自然界にも広く存在している物質で、花崗岩地帯や一部の温泉地などの人間が普通に暮らしている地域にも含まれています。
そして半減期が非常に長いということは、単位時間あたりの放射線放出量(放射能)は非常に弱いということでもあります。
したがって、適切に管理・処理・定期検査することで
- 職業上の被ばく限界内に収まる
- 深刻な公衆被ばくを生じない
- 規制基準内に抑える
といった水準で管理することが技術的に可能であると、国際原子力機関(IAEA)や各国の放射線保護機関・規制当局によって示されています。
しかし採掘・精錬・廃棄管理を誤ると、局所的に「長期居住に適さない環境」を作り出す可能性はあります。
長期間における体への影響
屋外で測定される放射線量が低い地域であっても、放射性物質が直接体内に取り込まれる場合には、評価は大きく変わってきます。
- 粉塵化された鉱石を吸い込み肺に入り込む
- 放射性物質を含む水を飲む
- 汚染された土壌で育つ作物を食べる
こうした生活を継続的に行った場合には、放射性物質が体内に入り込み一定期間とどまり続けることで内部被ばくが生じます。
多くの場合、こうした影響はすぐに体調不良として現れるわけではありません。しかし、数十年にわたる長期間の連続摂取によって、健康影響のリスクが高まる可能性が指摘されています。
ウラン・トリウムは核燃料になる?
レアアースで廃棄物として出るウラン・トリウムは、「捨てる必要はないのでは?」「原子力発電の核燃料として再利用できるのではないか?」という発想もあるかもしれません。
トリウムは理論上、原子炉内でウラン233へ変換できるため核燃料としての潜在的価値がありますが、現在主流の原子力発電所では使用されておらず、商業利用には至っていません。
一方、原子力発電で使われているのはウランの同位体の一部であるU-235ですが、燃料として利用するには回収後に濃縮や燃料加工といった工程が必要です。
レアアース廃棄物由来のウランも同様に追加の処理や専用設備が不可欠であり、コスト面や規制面から、現状では既存のウラン供給ルートが優先されています。
そのため、理論的な可能性はあるものの、実用化には至っておらず、多くの場合は放射性廃棄物として管理・埋設処分されています。
放射線以外の環境負荷
レアアース精錬の環境負荷は、放射線だけに限られるものではありません。むしろ、発生量や影響範囲という点では、以下のような問題のほうが大きくなる場合もあります。
大量の廃棄物発生
レアアースは鉱石中の含有量が非常に低いため、少量の製品を得るために膨大な量の廃棄物が発生します。
精錬後の廃棄物には、化学物質や重金属が含まれることがあり、管理が不十分な場合、雨水などを通じて土壌や水系に浸透し、動植物の生育環境に影響を与える可能性があります。
また、適切に管理・処理されたとしても、大量の廃棄物を管理・埋設するための土地スペースや、周辺環境への配慮といった課題は大きく残ります。
大気汚染
粉砕工程や輸送過程で発生する粉じん、化学処理に伴うガスは、周辺住民の呼吸器系への影響が指摘されています。
森林破壊と生態系への影響
レアアース鉱山の多くは露天掘り(地表から段階的に掘り下げる採掘方式)で開発されるため、森林伐採や地形改変が避けられず、生態系への影響が懸念されます。
まとめ
- レアアース自体は放射性物質ではない
- 問題は鉱石中のトリウム・ウラン
- 管理を誤れば長期的な居住制限が必要な地域が生じる可能性はある
- ただし最大の環境負荷は、放射線よりも廃棄物・化学汚染・生態系破壊である場合も多い
レアアース採掘・精錬に伴う環境負荷は放射線だけではありません。森林破壊や地形改変、そして膨大な量の廃棄物発生といった問題は、リスクを低減できたとしても、完全に解消することは難しい課題として残ります。
参考資料
- World Nuclear Association – Rare Earth Elements
https://world-nuclear.org - US EPA – Mining and Mineral Processing Waste
https://www.epa.gov - IAEA(国際原子力機関)
https://www.iaea.org - UNEP(国連環境計画)
https://www.unep.org