戸別収集は「ゴミ出しが楽になる」「高齢者にやさしい」といった利便性ばかりが注目されがちですよね。しかし実際に調べてみると、戸別収集にはごみの分別や減量にも効果があることが、各自治体のデータから見えてきました。
今回は、成功事例として参考にしたい3つの自治体をピックアップし、戸別収集の効果をデータとともにご紹介していきます。
数値改善に成功した自治体はほかにも多くあって全部紹介したいところですが、本記事では 戸別収集の開始時期が明確に公表されていて、導入前後の変化がはっきりと読み取れる自治体に絞って取り上げています。
調査の基準 「1人が1日に出すゴミの量」
今回の調査では、各自治体で戸別収集の導入がどれほど効果を発揮したかを判断するために、
住民1人あたりが1日に出すごみの量 を基準にしています。
この数値は次の式で計算できます。
住民1人1日あたりのごみ量 = 家庭ごみの量 ÷ 地域の人口
地域の人口規模に関係なく、1人あたりの数値で比較するため、
小さな町でも大都市でも公平に効果を評価できる点が大きな特徴です。
さらに、この1人あたりの数値を 全国平均と比べる ことで、
「その地域の施策が全国水準と比べてどれほど成果を上げているか」を判断できます。
国民1人1日あたりのごみ排出量
こちらのグラフは、日本で国民1人が1日で出す生活ごみの量を示したものです。

- 濃い青・・・資源ごみも含む生活ごみの総量
- 薄い青・・・可燃ごみ・不燃ごみのみの合計
全国平均の推移を見ると、近年はごみの量が全体的に減少し続けていることがわかります。
理由としては次のような要因が挙げられます。
こうして住民の意識の変化だけでなく、広い要因が重なって全国的なごみ減少の流れを生んでいます。
このように 全国平均自体も年々下がっている ため、
各自治体の施策の効果を正しく評価するには、
- 導入前と導入後の変化を見る
- さらに全国平均と比べてどれだけ差が生まれたかを見る
という 2つの視点 が必要になります。
国民1人1日あたりの資源ごみ排出量
戸別収集を導入すると、ごみと資源物の分別がより徹底されるため、資源ごみの量が増えることが一般的に想定されます。
そのため「可燃・不燃ごみの減少」だけを見るのではなく、「資源ごみがどのように変化したか」も併せて確認する必要があります。
ここで参考にしたいのが、回収された資源ごみの全国平均の動きです。

全国の資源物排出量の推移を見ると、平成10年時点では資源ごみの収集量はまだ多くありません。これはリサイクルに関する法律の整備が始まったばかりで、自治体の分別回収体制や市民の分別行動が十分に定着していなかったことによるものです。
| 時期 | 変化内容 |
|---|---|
| 平成7年 | 容器包装リサイクル法の制定 |
| 平成9年 | ビン・缶・ペットボトルの分別回収が一部施行 |
| 平成12年 | 紙製・プラスチック製の容器包装が追加され完全施行 |
| 平成18年 | 改正容器包装リサイクル法の成立 |
容器包装リサイクル法とは?
家庭から出るペットボトルや缶、びん、紙箱などの容器包装ごみを再利用するための仕組みを定めた法律です。消費者・自治体・事業者の3者が協力してごみの分別・回収・リサイクルを進め、ごみの総量と埋立負担を減らすことを目的としています。
容器包装リサイクル法が整備されたことで、びん・缶・ペットボトル・プラスチックなどの分別収集が全国的に広がり、資源物の収集量は大きく伸びました。
しかしその一方で、家庭から出るごみ全体の量は減らず、高止まりの状態が続いていました。
こうした課題を受けて、平成18年に法律が改正され、リデュース・リユース・リサイクル(3R)をより強力に進める仕組みが導入されました。
とくに「ごみそのものを減らす(リデュース)」の取り組みが推進され、過剰包装の見直しや事業者の排出抑制などが進んだことで、家庭から出る資源ごみの量も徐々に減少に転じていきました。
自治体ごとの資源物の推移を評価するときには、この全国平均の増加減少トレンドを基準として考えることが重要になります。
単に資源物が増えた減ったと見るのではなく、全国の動きを踏まえて、自治体の取り組みがどれほど効果を発揮しているのかを判断する、という視点が欠かせません。
神奈川県大和市の成功例

神奈川県大和市では、平成18年7月から可燃ごみ・不燃ごみの指定袋の有料化と戸別収集を導入しました。
大和市のごみ総量の推移

大和市では有料戸別収集を導入する前は、1人あたりのごみ排出量が全国平均をやや上回っている状況でした。
ごみ削減に向けた取り組みで全国平均近くまでごみの量を減らし、平成18年に有料戸別収集を導入して全国平均を下回ることとなりました。
大和市の可燃・不燃ごみの推移

可燃ごみ・不燃ごみの量は戸別収集の導入で大きく下がり、導入前後の平成17年と平成19年との比較では、27.8%減の大幅改善となりました。
その後も全国平均比で平均15.5%少ない水準を維持しています。
大和市の資源ごみの推移

大和市が戸別収集を行っているのは可燃ごみと不燃ごみであり、資源ごみは依然としてステーション方式のままです。それでも戸別収集の導入直後は資源ごみが43.7%も増加するという、とんでもない数字を叩き出しました。
その後は安定へと向かいますが、数字が落ち着いた平成26年以降も、全国平均を18.5%上回る値を維持しています。
東京都立川市の成功例

東京都立川市は平成25年11月に戸別収集方式を導入しました。このタイミングで、可燃ごみ・不燃ごみについては指定ごみ袋による有料化が同時に実施されています。
一方で、資源ごみについては戸別収集を行いながらも、回収は無料とされており分別とリサイクルを促す仕組みが取られています。
立川市のごみ総量の推移

立川市はごみ減量の取り組みを重ねて全国平均と同じ程度にごみを減らしてきました。
平成25年に戸別収集導入した翌年はごみの総量が9.1%減り、それ以降全国平均を下回り続けています。
立川市の可燃・不燃ごみの推移

立川市の際立った強みは、ごみの分別意識が非常に優秀なことです。
ごみ総量は全国平均と大きく変わらないのですが、可燃・不燃ごみの量は全国を大きく下回っています。
さらに戸別収集の導入後は、その特徴が一層強化され、可燃・不燃ごみをこれまで以上に削減し、全国平均との差を大きく広げるという成果を上げています。
導入前の平成24年と導入後の平成26年の比較では、19.0%の数値改善となっています。
全国との比較では、導入後は全国平均よりも27.8%低い水準まで下がっていることが分かります。
自治体の公式資料によると、制度導入から5ヶ月後には、
- 可燃ごみ:19%減
- 不燃ごみ:50%減
とすぐに大きな効果が出たことが記されています。
立川市の資源ごみの推移

立川市の資源収集量は、全国平均の 1.65倍という驚くべき水準にあります。全国的に見てもトップクラスの、かなり高いレベルに到達しています。
平成20年以降、全国的に「ごみをそもそも出さない」取り組みが進んだ影響で、資源ごみの回収量は減少傾向に入りました。こうした中、立川市はそのタイミングで資源ごみの戸別収集を開始し、本来であれば落ち込むはずだった数字を底上げすることに成功しています。
北海道石狩市の成功例

北海道石狩市は平成18年10月から有料戸別収集を開始しました。
可燃ごみ・不燃ごみについては指定ごみ袋を用いた有料戸別収集が実施されている一方で、資源ごみは無料での戸別収集となっており、分別とリサイクルを促す制度設計となっています。
石狩市のごみ総量の推移

石狩市はごみの量が多い状態が続いていましたが、有料戸別収集を開始後に数値を大きく改善し、ごみ総量を全国平均レベルまで減らしました。
特に導入した直後の平成19年は、前年と比べて21.6%減量という大きな結果を残すこととなりました。
石狩市の可燃・不燃ごみの推移

石狩市では有料戸別収集の導入は可燃・不燃ごみの削減に大きな効果をもたらしました。
制度導入前の平成17年と導入後の平成15年の比較では、34.8%減の劇的改善となっています。
その後もごみの減量意識を継続し、全国平均よりも19.5%低い水準を保っています。
石狩市の資源ごみの推移

資源ごみ量も戸別収集開始から急激に伸び、全国平均を大きく上回るようになりました。導入翌年の平成19年度では全国平均を27.5%も引き離しています。
その後減少傾向には入るものの、依然として全国平均を34.5%上回る高い数値を維持しています。
戸別収集は行政のメリットも大きい

戸別収集は住民がゴミを出しやすくなって便利になるだけでなく、行政側のメリットも大きい仕組みです。
ステーション方式と違って、戸別収集では「どの家庭のゴミか」がはっきり分かります。そのため、分別ができていない状態で自宅前に出すことは見え方としても気になり、結果的に多くの家庭が分別を丁寧に行うようになります。
こうした行動の変化はデータにも表れやすく、可燃ごみ・不燃ごみの量が減り、資源物の回収量が増えるといったゴミの内訳の変化につながります。
この流れは、焼却や埋め立てにかかる処理費の軽減や設備の延命につながるだけでなく、資源物の売却益という形で自治体の収入向上にも寄与します。
つまり、戸別収集は住民の暮らしを便利にしつつ、行政のコスト削減と資源循環の強化を同時に実現できる、非常に効果的なごみ政策だといえます。